ホーム&アウェイ

すっかり週末専用になってしもうた。
最近は自分にとってアウェイと言える場所へ行くことが多いです。趣味というのは基本自分の好きなもの、いわゆる「ホーム」的なもので構成されていて、だからこそ趣味なんでしょうが、自己完結も度が過ぎれば視野が狭くなりますし、適当な表現かどうかは分かりませんが「たしなむ存在」としての成長の機会もない気がするんですよね。それはそれで面白くない。
だからといっていきなりアウェイというのもキツいので、ホームの活動の中でいかにアウェイの種を見つけて育てていけるかが大事ということでしょうか。


えーと何の話をしようとしてたんでしょう。そうそう「夏唄日記」の話。ネタばれするよ。
石川梨華さん出演の舞台ちうことでホームといえばホームなんですけどテーマがね…


〜あらすじ〜
14歳で両親を殺害した『元少年』が出所する。
彼は偶然見つけた亡き祖母の日記に引きずり込まれ、昭和20年の広島にタイムスリップするが、そこに世界初の原子爆弾が投下され…。


うわぁ、重い。時空が歪むのも致し方ない重さですね。
冗談はさておき、こういうものは観る側もそれなりの覚悟といいますか脳みその準備をしなければならないので、ハロコンとの梯子はやめました。


で、感想。
観た後の印象としては、砲丸の球で野球をやろうとする姿には感銘を受けたけど、ド直球を投げ込もうとして肩を壊したような感じ。良く分からない喩えですがちょっと微妙だったということです。


個人的にはこの作品の柱として

1. 戦争や原爆を「知らない世代」がそれらをどう後世に伝えていくか。
2. 個人では背負いきれない現実に直面した時どう生きていくのか。

があったように感じました。


1については、舞台にも実際出演されていた作者さんが広島出身ということや、公演時期や場所からの類推でしかないのですが、戦後65年を経て「戦争を知らない子供たちを知らない子供たち」の世代がこういうテーマに真正面から取り組んで、舞台芸術という手段で伝えようとする試みは凄いことだと思う。自分は広島と同じく被爆地である長崎の出身ですから原爆の話は学校で習ったし、被爆した人たちも周囲にいるという環境にいてそれを後世に伝えていくということは意識してるつもりだけど、やっぱ伝わる範囲は限られていると思うんですよね。ですから同世代の人たちがもっと広い範囲の人に伝えようとする試みはやはり敬服する。


ただ2については、もっと違う描き方はあったんじゃないかなと思う。個人の趣味の問題であることは分かっているつもりだけど、敢えて。


上のあらすじでも出てきましたけど、今回の舞台は現代で両親殺しの刑期を終えた元少年が、実の祖母(光子)の若い頃の日記を目にして、過去を体験(というか傍観)するというのが大枠の流れ。
石川さん演じる祖母の光子さんは軍人の娘で、慰問歌手として各地の部隊を回り「お国のために尽くし、銃後を守る」ことを至上の喜びととしていたが、原爆で大切な人々を失い、更に敗戦(玉音放送)によって今までの価値観を徹底的に破壊されます。その中で慰問先で軍歌を歌い、死地へ赴く兵士たちを激励していたことで「殺人者」としての自分に気づかされていきます。


「私は歌で人を殺してしまった」


一方孫である少年は凶気の故とはいえ両親を殺害し、社会に戻ってきた後はどう生きていればいいか苦悩する…こうして孫と祖母はシンクロし「殺人者」として自らの罪に直面しながら生きていく意味を探すクライマックスを迎えます。
とまぁ書いてしまえばきれいにまとまるもんだけど、そこに至る積み重ねがちょっと雑かなと。
まず主観的な戦争責任とれっきとした犯罪行為を同一に重ねてよいか納得いかなかったし、せっかく知覧の特攻隊のシーンが出てくるのに歌で激励を行うシーンがなかったのはクライマックスでの説得力に欠けていたように思う。自分の息子(または娘)の死とその原因を知らされないまま死んでいくというのも、現実的には考えにくいし、戦中は国家より情報を知らせてもらえなかったというのも思い出されて、よく考えてみればかなり酷い扱いだよなと。石川さんファンとしての利己的な怒り込み。
一番違和感があったのはやっぱ孫の元少年でしょうか。本当にいるの?この役。
劇中はほとんど祖母の日記帳を抱えて、過去のシーンを傍観しているだけだし、唯一必要そうなクライマックスも上記の理由で薄いもんだから、出てくる必然性がよく分かんなかったんですね。最後まで。


個人的にはタイムスリップするんなら IZAM さん演じる夏彦先生かなと思った。劇中では唯一といっていいほど軍国主義に染まっておらず、戦局の帰趨も言い当ててるし現代的な考えの持ち主なので、横浜から来たというのも現代から来たのも同じように思う。ちょっと疲れた音楽プロデューサーという役どころであれば地も活きるし、蒲生邸事件のような展開であればリピーターが出にくい重さだけに、エンタテイメントとしてはよりましになるような気がするんですがこのあたりは素人の戯言です。
とはいえ生き難い現実というのは殺人云々だけでしか語りえないテーマだとは思わないんで、2に関しては方法論を変えた方が良かったように正直感じました。


全体としてはこんなところでしょうか。もう少し続く。