時を駆ける少女、たち

椿で有名な肥後熊本。
幕末の武士の娘つばきと現代の無名SF作家井納が、未来人の手でタイムマシンに改造された家(百椿庵)で出会う。
互いに魅かれあう二人。
だが幕末の動乱と寿命を迎え始めた百椿庵が二人の仲に影を落とす。
二人の恋の行方は?

真野恵里菜さん出演の舞台「つばき、時跳び」を観に明治座まで行ってきました。
明治座は初めての劇場だったんですが、やー伝統あるハコだけあって明治座自体が色々面白かった。特に観劇しながら弁当が食べられたり、幕間にご飯が食べられる食堂(予約制)があったり、お土産屋さんが充実していたのが両国国技館みたいで日本の伝統芸能というのはこういうのがスタンダードなのかもしれないなと思った。
客層も明治座の常連さんっぽいお年寄りや主演の福田沙紀さん、永井大さん、真野ちゃんのファン、はてはキャラメルボックスのファンが入り乱れるカオスな空間。今までのぼくなら半泣きで逃げ帰っていたかもしれませんが、アウェーの場で修練を積んだ?今のぼくには面白がる余裕がありました。そういえばぼくはどういう立場で観劇に行ったんだろうなぁ…わからん。



物語は三幕構成の長丁場。一幕は二人の出会いと現代での交流。二幕は過去での交流という一幕と対照的な流れ。そして三幕で伏線の回収という単純明快な構成。
登場人物のほとんどが違う時代の人々に対する適応が早いというか順応力の高さに驚きを超えてちょっと笑っちゃったんですが、現実的なことを言えば異世界に順応していく過程を丁寧に書くには尺が足りないし、今回の物語では拘る筋ではなかった。むしろ生活や文化の違いはあれど人間として大切なものは時代を超えても変わらない、というメッセージに重きを置いたと考えた方が良いのかと。
象徴的な三幕の立ち回りのシーンで、井納と竜馬に助太刀するつばきさんを見て敵方の河上彦斎が「女に助太刀されるとは情けない」と揶揄するのですが、つばきさんの「女が助太刀したくなるのが真の男というものだ」という啖呵を切ったのにはホント痺れました。敵方が敗れ切腹しようとするのを止めた際も「あなたにはこれから何百人何千人と子孫ができるんです。だからあなた一人が自由にしてよい命ではないんです」という名言。ちょっとグッときて明日からもう少しましな自分になって結婚したいよなぁと思った。すっげー飛躍。
とまぁややご都合主義的展開も否めなかったけど、ほっこりさせられる読後感と言いますか脳みそをあまり酷使することなく観ることができて良かったです。タイムトラベルのキーとなる旅人(りょじん)さんはどう考えても Back to the future のドクだよなぁ。



で。
立場が分からないと言いながらもアウェイで奮闘する「女優」真野恵里菜を初めて観るという目的は確かにあった。
真野ちゃん永井大さん演じる井納さんのいとこで、ちょっと気の強い女の子という役でしたが、良くやっていたと思う。声質とテンション上げ気味の役どころが良くマッチしていたし、少なくとも全く真野恵里菜を知らないお客さんたちに「あの一緒にタイムトラベルした女の子は真野と言うのか…」というくらいのインパクトを残すだけのものはあった。
課題としてはもう少し大げさに身ぶりをやっても良いんじゃないかということと、立ち姿をもう少し考えた方が良いだろうなぁ。これはきちんとした所作や立ち居振る舞いが要求される幕末の人を演じた紫吹さんや福田さんを見て思ったことなので、真野ちゃんにはやや酷な物言いにはなるけれど舞台上での佇まいの美しさってのは、コンサートにしろ舞台にしろステージに生きる者にとって必要なことのはずなので、今後舞台上での「すがた」というのをもう少し意識した方が良いように感じました。