真紅の女海賊 めーぐる(4)〜サイドB 第壱話〜

 「お茶はいかがですか〜♪」
 「ふがっ?」
 白米で頬をサルの様に膨らませながら声のした方を向くとやかんを持った背の高い女の子が立っていた。
 「エエエエエエリカひゃん…んがぐぐ。」
 「ちょっとぉ〜大丈夫?」
と笑いながら彼女は湯飲みに麦茶を注ぐ。
 「んくくく、ぶはぁ〜助かった。オツトメご苦労様であります。」
 「にひひ、ありがとうございます♪」
 どこか中学生離れした顔のウメダエリカは屈託なく笑いながら、僕の読んでいた粗末な紙束に目をやる。
 「テラヤマ君、何読んでたの?何、『真紅の女海賊 めーぐる』…なにこれ?」
 「あ、それは…」


 ぼごん。教室に情けない音が響く。
 「アタシがナンだって?」
 後ろを振り返るとアイツが立っていた。ムラカミメグミ。
 「痛いよぅ何すんだよぅ。バカになるぢゃないかぁ、殴っても脳みその細胞は死ぬんだぞぅ。」
 必死の抗議もムラカミは鼻であしらい、
 「呼んだのはアンタでしょ?あいさつ が わ り!エリ、何読んでるの?」
 「テラヤマ君が見てたの…『真紅の女海賊 めーぐる』だって」
とエリカさんは粗末な紙束をムラカミに渡す。


 「ちょ…アンタ、何これ?」
 「何といわれても…来年の文化祭のさぁ」
 頭を抱えてると妙に言い訳がましくなる。ムラカミの大きな瞳に見つめられるといつもこうなのだ。いつからだろう。
 「いいからその情けない語尾はやめなさいってば。文化祭の?脚本のこと?」
 「そう、父さんの持ち物なんだけど。」
 「父さん?ああ〜アンタのお父さん変わってるもんねー…中学生でも分かるもん。」
 「ん、『めーぐる』って滅多に出てこないだろ?ベーグルなら兎も角さ。だから珍しくて。」
 「面白くな〜い、ナニナニ…」
と軽く撃沈しておいて読み始める…


 僕の名前はテラヤマミツオ、何処にでもいるような中学2年生だ。中学入学を機に親の再婚でこの町に来た。本来なら転校生って身分で肩身が狭いのだが、2校区から生徒が来るのでエトランゼとしては目立たなくなる。友達を作るのはそれほど難しくはなかった。そこにムラカミの力がなかったといえば嘘になるけど。
 ムラカミは隣の家に住んでる女の子だ。越してきた時彼女は初対面の僕に向かってこう言った。
 「めーぐるって呼んで。隣に越してきたんだ…ってことはキミ、シュージさんの子供になるの?」
 「うん…」
 「あちゃ〜大変そうね。あの人、お父さんなれるのかしら?」
と人のウチのチチオヤをさり気なく酷評した挙句(まぁ今となっては当然の見解なのだが)
 「…よっしゃ私に任せなさい!」
と何を任されたのか分からないが、彼女は男女関わらず、自分の友達に僕の事を次々と紹介してくれた。戸惑いながらもついていく僕はさぞ金魚のフンに見えたことだろう。おかげでエリカさんともすぐに親しくなれたのだが。
 とまぁここに来ての18ヶ月はあっという間でもあり、平凡な中学生なりにそれなりのモノを積み重ねてきたらしく、最近では僕は彼女のことを「オマエ」か「ムラカミ」、彼女は「キミ」から「アンタ(with 殴打)」と呼ぶようになっていた。それはそれで気のおけない仲ということなのだろうけど、僕は何時まで「めーぐる」と呼んでいたのか?大事な事のような気がするのだがそれを思い出せないでいる。


(続く)
バトンなので欲しい方に差し上げます。