真紅の女海賊 めーぐる(7)〜サイドB 第四話〜

 眠れない。布団の中でゴロゴロ転がりながら明日のことを考えている。ため息さえ出てくる。
 気が重いのは握手のことだ。何を話せばいいんだろう。同世代の女の子ではあるのだけれど、相手はテレビの向こう側の人だ。日本語が出てくるかどうかさえ怪しい。今日一日そのことで頭がいっぱいで父さんに粗末な紙束のことを聞くのを忘れていた。学校で重爆キックをお見舞いされたが神経のスイッチが切れていたようであんまり痛くなかった。ムラカミの怪訝な顔が頭に残っている。
 羊を数える代わりに昨日の夜のことを思い出していた…


 …見終わった後二人は何とも複雑な表情をしていた。
 「うーん、これで3000円か…一般人からしてみたら騙された気分がしないでもない。」
 「確かにそうだけど、ファンの人からしてみたら結構な出来なんじゃない?少なくともこの子たちは可愛いなぁというのは伝わってきたわよ。」
 「でもなぁ、折角のミュージックVなんだけど楽曲の世界をまた違った表現で伝えてみたいというのがないように見えるのはどうもな。カメラはほぼ固定だし、アップの画面は角度が同じ。どうもお粗末な感じのほうがするのだが。」
 「こういってはナンだけどアイドルなんだからってのはあるんじゃない?可愛さってのが至上命題みたいな。」
 「可愛いってだけってのも勿体無い気がするんだけどね。ミツオはどうだった?おーい。」
 「ハッ!何?」
どうやら見蕩れていたらしい。二人は悪戯っぽく笑いながら
 「まぁ一番欲しかった人がこうならばいいんでないの?」
と何やら納得していた。


 「最後の曲でやっと名前が分かって部外者としては助かったんだけど、あのまいちゃんって子はいつもああなのか?何かフィンガー5とか大門刑事みたいな感じのサングラス…」
 「うん、最近かけはじめたみたいだよ。」
 「そうか、1曲目の主役の子…あいりちゃんか。まゆ毛の形が下がってて困った感じで何とも困るなぁ。あんな目で見つめられたらドギマギすんだろうなぁ。こっちが困るってぇの、なはははは。」
 「あなたが困ってどうすんのよ、確かにああいう上目遣いってのは武器の一つだわね。そういう意味ではめぐみちゃんが一番上手だったかもしれないわね。悪女になれそうだわ、あの子。個人的にはちさとちゃんていう子が気に入ったなぁ。元気そうで笑顔がステキ、この子もまゆ毛が下がり目なのよねぇ。後3年もしたら物凄い美人になるわよ〜♪」
 「美人になるって言えばさきちゃんて子は髪型で全然印象が違うのな。今変わってる真っ最中なのかもしれないな。かんなちゃんって子も今はサル系統の顔をしてるけど将来は松浦亜弥とか高橋愛のような美人になるぞ。」
 「背の高い子たちもキレイだったわね。やじまさんだっけ?ユニフォームで4番の子、キャプテンなの?あぁリーダーね。スポーツ系の美少女って感じね、伊東美咲さんみたいな清潔感があるわね。表情のつけ方とかはまだまだだけど動きが凄いダイナミック。」
 「一番背の高い子も綺麗だね。カワイイってよりキレイの部類。でも好みが一番はっきり分かれそうなタイプだな。」
 とこちらそっちのけで「1曲目のハートの切り抜きは物凄く萎えた」とか「2曲目のミニスカートは何か見えないか期待した」とか「バスケの試合で10対9はないだろう」とか「ソロダンスは恋愛レボリューション21みたいでなんか懐かしかった」とか「バスケのユニフォームではなくてミニスカートで踵落としをやってほしかった。」とか好き放題のことを言いながら大いに盛り上がっている。次見ようってことで Perfume の「エレクトロ・ワールド」を見ながらこのCGは頭がオカシイなとか、あぁ担当が「GONZO」ね、凄いわねぇと夕飯そっちのけで喋っている。何か母さんの意外なというか新しい面を見たような気がする。薄々気づいてたが二人はやっぱり似ている、趣味というか魂の色が。でも屈託なく笑う母さんを見てやっぱり良かったなぁとも思ったりもする。
 僕個人の感想を言うと梅田えりかさんはとても綺麗だった。即抱きしめてのパーマは何か老けた感じでちょっと微妙だったがとても綺麗だった。それだけが全てだ。僕は父さんや母さんのようにいろいろな物を見てきた上での評価を下すことは出来ないし、演出意図や技法についても何か言うほど勉強しているわけでもない。だがえりかさんは綺麗だった、それで良いのではないかと思う。恐らく二人もそれを分かった上で色々言っているのだろうけど。
 でももう少し長い時間出てほしかったなぁ。


 そんな女の子と明日至近距離で握手する。一言ぐらいなら言葉も交わせそうだ。大変幸せな状況なのだがチョット憂鬱だったりする秋の夜。
 眠れないよぅ。


(続く)
バトンなので欲しい方に差し上げます。