白いTOKYOは夜の七時〜カレー編

 メリークルシミマス


☆☆★☆☆ ☆


 メリークリスマス!
と言って、清水が差し出したのは弁当箱だった。
匂いで大体分かる。カレーか。


「今日こそはおいしいと言わせてみせるからね」
「…ここで食べるの?」
さっきまで星が見えるくらいの綺麗な夜空だったのに雲が出始めている。風も少々吹いてきた。


「あたりまえじゃない。温かいうちに食べてくれなきゃ意味ないよ」
仕方なく近くのベンチに座り、ひざの上に広げる。
ふたを開けると湯気とともに香ばしい匂いがあたりに広がる。


スプーンで一口すくい、おそるおそる口に運ぶ。
清水がまゆ毛を八の字に下げて不安そうに見ているのが視界の端に映った。
「…うまい」
「えっ?」
「うまい、うまいよ清水!」
次々とカレーをすくい、口に運ぶ。スプーンが止まらないとはこのことだ。


思えば、清水との戦いの歴史は壮絶なものだった。
調理実習での残りを無理矢理食わされてお腹を破壊されて以来、実験台になっていたといっても過言ではない。
傍から見るとレシピどおりにやればできそうなものだが、出来上がってきた物はレシピから程遠い。
勉強はできるのに料理となるとからっきしなのだ。


苦節三ヶ月、ついにうまいと言えるカレーに出会った。
でもこれで清水の(一応)手料理を食えないかと思うとちょっと寂しく思わないでもなかったけど。


「ごちそうさま、うまかった」
手を合わせスプーンを空の弁当箱に置く。
清水のほうを見ると意外にもさっきと同じくまゆ毛を八の字にして困った顔をしていた。
おかしいな、勝ち誇ると思ってたのだが。


「どうした?」
「…ごめんなさい!」
ほめたのに何で謝られるんだ?
「清水?」
「そのカレー…桃がつくってくれたの!」
「はぁ?」
「あの、ほら、今日はクリスマスだし、どうしてもおいしいって言ってほしくて一生懸命作ったんだけど、どうしてもできなくて。それで桃に手伝ってもらったというか、ほとんど作ってもらったの!」
「……」
「最初は、おいしいって言ってくれて嬉しかったの。で、でもね。あんまりおいしそうに食べるもんだから騙してるような気分になっちゃって。それに…」
「それに?」
「なんか、桃の作ったカレーをおいしい、おいしいって言ってるのが悔しくて…」
黙っている俺を怒っていると思ったのか、清水は俯いて「ごめんね ごめんね」を繰り返した。


「清水さぁ」
顔をあげる。
「ごめんね、怒ってるよね」
「そうだなぁ、罰として」
「うん、罰として?」
「清水の料理が上手くなるまで、俺を実験台にしろ。そんでもって上手くなったら…もっと食わせろ。いいな!」
清水はしばらくポカンとしていたが、やがて俺の言った意味を理解したのか、泣き笑いのような表情を浮かべ、


コクンと頷いた。