白いTOKYOは夜の七時

 メリークルシミマス
 むしゃくしゃするのでやってやったって(by 越中
 7編中4編まで書いたけど少々長いので分割。
 滑り倒そうがここまで来たらあと3篇書くぜ。


☆☆☆★☆ ☆


「おつかれー」
校舎の大時計は6時半を回っていた。
あたりはすっかり暗くなっており、校舎の電気も職員室を残すのみだ。
「さむっ」
木枯らしに身を震わせていると「おまたせぇ」と矢島が出てきた。
「おまたせぇ、じゃねえ。早く来いよ。寒いだろうが!」


帰る方向が同じなので部活の後は送って帰るのが日課になっている。
矢島はちょっと不満そうな顔を見せたが、黙って俺のあとについてきた。
「あのさぁ」
「なに?」振り向くと、
「ちょっと…遠回りして、帰らない?」
「……」
こいつはさっきの言うことを聞いてなかったのだろうか? 寒いから早く帰ろうって言ってんだろうが!
という言葉がノドまで出かかったが、何だか不安そうな顔を見るとそのまま飲み込まざるを得なかった。
「別にいいけど…風邪ひくぞ?」
と答えると、矢島の顔がぱーっと明るくなる。


「だいじょぶだいじょぶ、さっきシャワー浴びたから」
「……」
風邪をひきそうなのは俺のほうなのだが、矢島が嬉しそうなのを見て、まぁいいか、という気分になった。


街灯の光が頼りなく照らす道を並んで歩く。
後ろの髪を束ねたうなじのあたりから、何だかいい匂いがしてくる。
そういえばシャワー浴びたって言ってたっけ?
汗っかきだし、隣のクラスの梅田と比べるとやや色気に欠けると思っていたのだが、
こうして見るとやっぱり美人だし人気があるのも頷ける。
毎日顔をつきあわせているのになんだか妙に新鮮だった。


好きなヤツ…いるのかな。


ぼーっと考え事をしていたせいか、矢島が立ち止まったのに気づかなかった。
「あの…」後ろから聞こえる声にあわてて振り向く。
「どうした?」
ちょうど公園の入り口だった。
矢島は俯いてモジモジしている。いいにくい事を言おうとしているようだ。
「あ、トイレ? 待っててやるから行って来いよ」
と言うと
「もぅ、全然デリカシ〜ないんだから、バカ」
一瞬ふくれっつらを見せたが、また俯いてしまった。


なんなんだ一体?


動こうとしない矢島のただならぬ雰囲気に業を煮やすというより戸惑ってしまう。


きょろきょろとあたりを見回す。
公園の木々の向こうにそびえる高層ビルが見え、その背後にオリオン座が瞬いていた。
東京でもきれいに見えるんだなぁと見とれていると、
「あの…」
視線を戻すとまっすぐ俺を見ている矢島の視線とぶつかった。
目が合った途端、矢島はニコッと笑い小さな包みを差し出す。
 メリークリスマス! 大好き♡