白いTOKYOは夜の七時〜大きな愛でもて期編
予め謝っときます。
サーセン。
☆☆☆☆☆ ★
「はいっ♪」
と言って彼女がくれたチョコレートの箱は異様に小さかった。
一口大サイズと言えば適当だろうか。
手作りなのは嬉しいのだが…さてはつまみ食いしたな。
と思ったものの、くりくり動く大きな瞳につい見とれてしまいつっこみの言葉は出なかった。
「あ、ああ、サンキュー」
彼女はよし、と小さくうなずく。
「あたしって、かわいい?」
はあっ?
脈絡がなさすぎる。
そう思ったのに俺の口はなぜか考えたとおりに動いてくれなかった。
「ああ、とっても、かわいいと思う」
言ってしまってからコトの重大さに気づき、慌てる。
何言ってるんだ…俺?
彼女は嬉しそうに微笑み
「ほんと?」
「うん」
おいおい。
彼女はさらにニコッと笑い、目を閉じる。
俺も彼女に顔を近づけながら、手を彼女の背中に回した。
「俺、お前のこと…!」
と彼女を思い切り抱きしめようとした途端、片手が空を切った。
あれっと思うと同時に視界が暗転。
♪自慢したいすてきなかれ〜し♪
気がつくと目の前に映るのは彼女の顔ではなく天井と差し出したまま固まった俺の右腕だった。
つけっぱなしのラジオからはバレンタインデーにふさわしい軽やかな音楽が流れている。
そうか、夢か。
勉強の息抜きをしてたつもりがそのまま眠ってしまったらしい。
起き上がりベッドの端に腰かける。
ふぅ、と息をつくと同時に苦笑いのようなものがこみ上げてくる。
夢にまで出てくるとは、重症だな。
♪頭の中ほとんど〜かれ〜し♪
彼女の転校を知った時は青天の霹靂という言葉がピッタリで、
頭の中で「ガーン」という効果音が鳴った後目の前が真っ暗になった。
彼女のことが好きだとはっきり意識したのもこの時だった。
失おうとした時に初めてその大切さに気づく。
全く馬鹿みたいだが、とにかくその時の俺は彼女のことを失いたくない一心で告白した。
緊張と焦りで告白もままならず、その時のことを思い出すと未だに冷や汗が吹き出すのだが、
意外にも彼女はオッケーしてくれた。
「あたしも好きよ」
こうして俺の初恋は遠距離恋愛になった。
はい、北区にお住まいの「まゆ毛コンドル」さんのリクエストで
プッチモニの「ぴったりしたいX'mas」をお送りしました〜♪
い〜い歌ですよねぇ、わたしもこの曲大好きです♪
ってお〜いっ、今日はバレンタインデーだっつ〜の!!!
あっ、雪が降ってきましたね〜今年はよく降るなぁ…
しかし人間というのはぜいたくなもので、一つのことが満たされるとより上を求めてしまうものらしい。
最初はメールで日々のやりとりをするだけで充分だった。
そのうち彼女の声が聞きたくなり電話が混じるようになった。
顔を見たいと思うようになった。
そして彼女に会いたいという気持ちを抑えられなくなってしまった。
…お別れの時間が近づいて参りました
本日のラストナンバーはタンポポの「王子様と雪の夜」
それではみなさんあまいあまいバレンタインデーをお過ごしくださ〜い♪
トワイライト・ラブレター、GAKI がお送りしました、バイバイキ〜ン
しかし彼女の住む場所は中学生がホイホイ会いにいけるほどの距離にはない。
会えないということがこんなにつらいとは思わなかった。
せっかく両想いになれたのに…
男なのに情けない話だ。
いや、それだけではないのかもしれない。
自信がなかったのだろう。
クラスで評判の彼女がオッケーしてくれた理由も未だに分からなかったし、
転校先でも放っておかれないだろうなと考えると焦らずにいられなかった。
彼女のことを信じられない自分にも嫌気がさす。
♪テレビを見てたら不安になっちゃって
あなたに電話した雪の夜♪
ピンポ〜ン
玄関でチャイムが鳴った。
「ちょっとぉ、出てくれる〜? 母さんちょっと手が離せないの」
台所の方から声が聞こえてくる。
カレーの匂いが鼻をくすぐった。
「頭の中ほとんどカレー臭」
お寒いギャグでも今の俺には温かい薬だ。
ちょっと心が軽くなる。
ラジオから流れるかわいい歌声を背に俺は玄関先へ向かった。
♪お風呂に入ろうとし〜た〜ら
バイト 抜けて あなたが来てくれた♪
ガチャッ
玄関を開けると運送会社の制服を着たお兄さんが立っていた。
肩越しに雪が降っているのが見える。
「今日指定の宅急便です」
「あ、はい」
玄関横に置いてある判子を取り、受取証におす。
「どうもー」
雪が降る中を走り去るお兄さんの背中をしばらく眺め、送り状に目をやる。
彼女からだった。
バタバタと食堂に駆け込み包み紙を乱暴にはがす。
中にはメッセージカードとチョコレート、ネクタイが入っていた。
チョコレートはやっぱり小さかった。
メッセージは
「受験、頑張ろうね」
たった8文字のメッセージ。
それでもすごく嬉しかった。
何度も何度も読み返していると、母さんがカレーの鍋を持って台所から出てきた。
「誰だった?」
「あー宅急便、俺あて」
「おんやぁ? バレンタインのプレゼント? あんたもやるわねぇ」
「ややややってないよ」
「あらっ」
母さんはテーブルの上に置いてある箱に目をやり、そして意味ありげに笑った。
「ちょっとぉ、あんたの彼女もやるわねぇ」
「何が?」
「ネクタイよネクタイ♪」
「はぁ、ネクタイ?」
チョコはともかくネクタイを贈ってくる理由がよく分からないのだが、
まぁ卒業式でつけろと言う事なのだろう。
そう言うと母さんはあきれたように俺を見て
「ばかねぇ、女性が男性にネクタイを贈るのはねぇ、特別な意味があるの!」
「意味?」
あなたにくびったけ
(おしまい)