真紅の女海賊 めーぐる(5)〜サイドB 第弐話〜

 「…こいつは長い一日になりそうだ、ってもう終わり?」
 「うん、導入部で終わってるんだ。ヘンだろ?」
 その粗末な紙束は明らかに最初の僅か数ページを残して破り取られていた。
 「ん〜…でさぁどうすんのこれ?」
 「話が前後しちゃったんだけど、スガイ先生が新学年の脚本助手…やれってさ。勝手が分からんから色々読んでたんだけど」
 「えっ?アンタがやるの?」
 「すご〜い、テラヤマ君!」
 「エリカさ〜ん、エヘラヘラ」
 「もう、エリはホント甘いんだから。脚本はどうせスガイ先生が書くんでしょ。」
 「でもさぁ、あらすじとか人物を考えるのは俺なんだろ?」
 「まーね。スガイ先生のポリシーだもんね。でも万年照明係のアンタがねぇ…出世したね。」
 「万年っても1年じゃねーか、失敬な!学内の読書感想文コンクールで銀賞を取った俺の文才を舐めとるな!改心せいッ!」
 「どーせ応募者2名とかなんでしょ?現にこれを使うとしてもさぁ…続きとか考えてるの?構成は?オチは?」
 ぐぅ。
 「ほらね。出たのはぐぅの音だけじゃない。」
 「お前が機関銃のように喋るからいえなかっただけだい!一応考えてあるもんね。」
 「じゃー言ってみなさいよ」
 「この後、サングラスをしている海女見習いとか日焼け止めが欠かせない手下とかメロン好きの謎の転校生とか出てくんの!そんで実はめーぐるメーテルの娘でジオンじゃなかった冥王星公国軍に捕らえられたお母さんを助けるためにキャプテンハーロックの元でただの海賊から宇宙海賊になるのだ。必殺武器は反動蹴速迅砲!!愛と勇気と血と涙と汗に満ちた冒険活劇になるのだああぁぁ!」
 ぼごん。
 「何興奮してるのよ。アンタ段々シュージさんに似てきたわね。興奮したら見境無くしゃべる所なんか特に。」
 「ギクッ!」
 「あー一瞬でも期待したアタシがバカだった…ほらさ、今年は高等部のセンパイ達が凄いモノ出したじゃない?ほら…『リボンの志士』」
 「あ〜、あの沖田総司が実は女ってヤツ?」
 「それは幕末純情伝でしょ?パクリだと思われるわよ。沖田総司が男女二つの魂を持つってヤツ、総司役のタカハシ先輩かっこよかったわぁ〜」
 「それも怪しいと思うが…。やっぱ坂本竜馬役のイシカワ先輩でしょー、フジモト先輩の西郷隆盛も凄かったでごわす。」
 「あれさぁ、全国でも結構良いところまで行ったらしくて、それに刺激を受けて顧問のスガイ先生…興奮しちゃって大変よ?下手なモンを考えたら『アンタ舐めてるの?舞台を甘く見ないでくださいッ!』ってドヤされるわよ。」
 顧問のスガイ先生は確かに愛に満ち溢れているのだが中学生だからって容赦はしないのだ。
 「怖いよぅ、シクシク。幾ら裏方で暇そうに見えるからって何で俺なんだよぅ。メソメソ。」
 「あ〜もう、情けないわねッ!地の文でやってよそういう細かい芸は。ホントめんどくさい男ね…チョットは協力してやるわよ。」
 「まじでじま?」
 「感謝しなさいよ。どうしたの、エリ?」
 それまで気配を消して粗末な紙束を読んでいたエリカさんが素っ頓狂な声を上げていた。
 「ここ、私の家族に似てる…ほら、カジキを釣ってカレーにするって、うちもなの〜♪あっ!」
 「なによぅ?」
 「そう言えば似たような内容読んだことあるわぁ。さっきテラヤマ君言ってたじゃない、日焼け止めがどーのって」
 「え?」
 「確か…部室だったような気が…」
 「面白いじゃない。」
 ムラカミは不敵に笑う。その精彩に満ちた笑顔が何とも眩しかったりして、何かドギマギする。胸の辺りがムズムズする様な…
 「行くよ!」
 僕たちは部室に向かった…


(続く)
 バトンなので欲しい方に差し上げます。