真紅の女海賊 めーぐる(9)〜サイドB 第七話〜

 「おっと」
 いつの間にか外に出ていて誰かにぶつかったらしい。父さんと同じくらいの年の背の高い男の人と目が合った。日に焼けたらしく鼻の頭が赤くなっている。
 「あ、すみません」
 「こちらこそ、具合悪いの?」
 「大丈夫です。ありがとうございます」
 「そう、気をつけて…おぅ、司馬さんじゃないですか!中に入られたんですか?」
 「あ、コンドルさん…そうなんですよ。昨日のあややコンでテンションあがっちゃって。知り合いが譲ってくれまして。今、かしましさんが出てくるのを待ってたところなんですよ。もう少ししたら出てくるんじゃないかな〜」
背の高い男の人は知り合いを見つけたらしく親しげに話しながらこちらをチラッと見て微笑む。僕も軽く会釈してきびすを返す、抽選のことを思い出し売り場へ戻った。当選すればメンバーのサイン入りの「キューティービジュアル」の販促ポスターが貰える。抽選券は2枚ともはずれだったが何れにしろポスターだけは貰えたので満足だった。飾る場所を考えなきゃ…
 …「ホント、ゴメンね。」
 学校からの帰り道。ムラカミのケンカキックをマトモに受けた後暫く気絶していたらしい。鼻にティッシュが詰まっている。隣家にもかかわらず、いつもはエリカさんと帰るムラカミも今日だけはついてきた。責任を感じてるらしい。
 頭の中では「おっとDJマイマイがミステイク!」「チェキラ…チェキラ!」がエンドレスリピートしている。軽く頭を振ってフレーズを追い出す。ムラカミはその仕草をまだ頭が痛いせいだと思ったらしく
 「大丈夫?ゴメンね。」
と心配そうに見つめてくる。心なしか大きな瞳が潤んでいる気がする。僕は慌てて
 「ふんが。や〜大丈夫、大丈夫。ホンと大した無いんだよ、いつもの防御を忘れてたんでさぁ、こっちこそボーッとしてて大事になってスマン。」
 「こちらこそ…ゴメンなさい。」
 「いやいやこっちこそ」
 「いやいやいや」
 「いやいやいやいや」
いつの間にか立ち止まって謝りあっている。他人が見たらかなり奇妙な光景であることは疑いない。赤面しつつあたりを見回す、同じことをしていたムラカミと視線が合う。思わず笑みがこぼれる。
 「ははっ」
 「あはははは」
屈託無く笑いながら、このまま家に帰るのが何故か惜しくなってきた。この時間がこのまま続けばいいのに。
 「ちょっと話さないか?」
思わず出てしまった言葉に我ながら驚く。こっちを見るムラカミに蛸踊りをしながら
 「いやいやいや、歩きながらでいいんだけどさぁ、なははは…」「いいわよ。」
 「は?」
 「お話しするんでしょ?アンタが何かするとも思えないし…じゃあそこの公園で…!」
自分で振っておきながら、どことなくハッとした顔になる。
 「ムラカミ?」
 「いやいやいや…何でもない、何でもないの。じゃあそこのベンチね。」
今度はムラカミが蛸踊りをやっている。
 僕たちはベンチに座った。


(続く)
バトンなので欲しい方に差し上げます。