白いTOKYOは夜の七時〜夜の格闘技編(後編)

 何か色々…ごめんなさい♡


★☆☆☆☆ ☆


ピンポーン。


チャイムを鳴らすと
「はいは〜い」
という声がしてドアが開いた。

「あ、いらっしゃ〜い♪」
「うん」
「どうしたの?元気ないじゃない」
「何か人間関係に疲れちゃったと言うか」
「それじゃ今夜のごはんは…」
彼女は一呼吸置いて、満面の笑みで


「お〜にく〜♪」


下手なウインクを一発。
ここにもヘンな人がイタッ。


ん?
「何か焦げる臭いがするんだけど」
「えっ?」
彼女は鼻をクンクン動かし、突然
「キャー」
と叫んで、玄関から駆け去っていった。


*
部屋に入るとテーブルの上の備前焼の壷がお出迎え。
うーむ…微妙だ。
季節の梅が差してあるのは良いのだが、壷はないだろう、壷は。
まぁマネキンが着ている服を買うそうだからセンスは推して知るべしなのだが。


「おまたせぇ」
と言う声がして彼女が料理を運んできた。
私はテーブルに並べられた料理を見て再び絶句した。


ステーキ、から揚げ、しょうが焼き…


全部コテコテの肉料理ばっかりじゃないか。
だが上機嫌で「お肉スキスキ、お腹スキスキ♪」と鼻歌を歌いながら
料理を並べている彼女を見るとつっこむ気も失せる。
「PIYO PIYO」とひよこが描かれたエプロン姿の彼女がかわいすぎるのが悪い。
よし、食べて食べまくってやろうじゃないか。


席に着き箸を取る。
「い、いただきます」
「い〜っぱい食べてね♪」
とニコニコしながら言ってくれるが、
かつて便所のニオイがすると評された彼女の料理を食べるのは正直勇気がいる。


しょうが焼きから手をつける。
「ん」
「どう?」
「うまい、うまいよ!」
「やったぁ」
私の心配はこうして杞憂に終わった。感動した。


ほどなくして私のお腹は満腹を迎える。
「いやぁ、うまかった。ちょっと前までは白玉しか作れなかったのに」
彼女はニコッと笑い
「うん、ミキちゃんに習ったんだ」
「ミキちゃん?」
「彼女…肉料理いろんな意味で得意だから…それに、最近暇してるって言ってたし」
「暇ねぇ…」
「あ、今ヤキモチ焼いたでしょ」
「ややややいてねぇよ。焼肉焼いてもミキモチは焼きません」
「ふふっ、か〜わいい」
「かわいい言うな」
照れるじゃないか。


「ちょっとは元気になった?」
「!」
どうやら彼女なりに気を遣っていたらしい。
胸の奥が何やら温かくなる。
彼女に出会えて良かったと思ったのはちょっと大袈裟だろうか。
照れてるのを彼女に悟られたくなくて例の原稿を彼女に見せる事にした。


*
読み終わるのを見計らって尋ねる。
「どう思う?」
「ロマンチックよねぇ」
私は心の中でズコーッとこけた。


前言撤回、やっぱり彼女のセンスは微妙だ。
だが「彼女」の小説というのもおこがましいが、
とにかく書いたものを否定しているのは今のところ私だけなのだ。
となると、私のセンスがオカシイのか?


「どんな人なの?」
「へっ?」
「だから、これ書いた人。どんな人?」
「どんな人って…」
「会ってみたいなぁ。知り合いなんでしょ?」
「まぁそうなんだけど…会ったことはないんだ」
「えっ?そうなの?」
「うん、メールで原稿が送られてくるだけだから」
「じゃあ男か女かも分からないんだ」
「まぁそういうことになるね」


プロフに「腐女子」と書いてあったから便宜上「彼女」と呼んでいるが、
実際に会った事もないので本当のところは分からない。
分かっているのは「スズキアイリ」という「名前」と「4月12日生まれ」ということだけ。
なぜ「4月12日」が分かってるかというとウチの編集部の採用条件がそれだからだ。
ヘン集長もコンドルさんも、そして私も…


「じゃあ誕生日しか分からないってこと?」
「うん、でも『東京は夜の七時』を知ってることといい、男子中学生が考えそうな都合の良すぎる展開といい…
ホントはかなりのオッサンじゃないかと思うんだ」
「何かミステリーだね♪」
言うに事欠いてミステリー…Berryz工房かっ!
何か私より彼女の方があそこにお似合いのような気がしてくる。


*
「でも私も『あなたにくびったけ』って言ってみたいなぁ」
目をキラキラさせて私のほうを見つめてくる。
「は、ははは」
何かアブナイ雰囲気になってきたぞ。


その時


お前も蝋人形にしてやろうかッ!


携帯の着メロが鳴った。助かった。


「あっ、コンド、近藤さん?」
「お前さぁ、今暇?」
かなり沈んだ声だ。
「いや、暇っていうか、その…」
暇という言葉に彼女が反応する。


「それより、今ライブじゃないんですか?確かパフュームとかなんとか」
「違ったんだよ!『バキューム』だったんだよ!!騙されたッ!!!」
「それは…」
「本物は2日前に終わってたんだよ!あー何が悲しくてウンチョス処理のライブに行かなきゃなんねーんだよ!」
コンドルさんの絶叫に私はあわてて耳を離す。
「だからさ。今から飲もうぜ。俺を慰め…プーップーッ」
電話は突然切れた。
見ると彼女が私の携帯電話に指を置いていた。
目つきが怖い。


「あ、あの」
「4714」
「はっ?」
「あ、いやっ今日は私と過ごすの。ねっアレやろ?」
「アレって?」
「や〜ね。大の大人が2人ですることって一つしかないでしょ♪」
と言って彼女はベッドルームの方に入っていった。
それって…


私の中の何かがはじけた。


「リ゛ガぢゃああああ!!!!」
ベッドルームにダッシュで駆け込もうとするとこちらに戻ってくる彼女と鉢合わせした。
「きゃっ、も〜どうしたの?」
「あ、いや、その」
「さ、やるよ♪」
と言って彼女は


大乱闘スマッシュブラザーズX


をセットした。


「最近、これにくびったけなの♡」


(おしまい)