アイスと笑顔とクリスマス(前編)


今年も書いてやった。大幅に遅れたけど。
メリー“ぐだぐだ”クリスマス。


☆☆☆☆★☆☆ ☆


クリスマスの街はどこか違う。


それとわかるケーキ箱を持った勤め帰りのサラリーマンや
大きなデパートの袋を両手にぶら下げたお母さん、
サンタのような衣装のお姉さんなどで道はごったがえしている。


ビルのあちこちできらめく色とりどりの明かりは眩しいくらいに綺麗だ。
この光の洪水の中で制服姿で立っていると自分がまるで遠い外国に来ているような場違いな気分になる。


 聖なる鐘が鳴りひびく夜
 この恋よ 未来まで続けと願うから
 聖なる鐘よひびけ Oh my wish
 勇気に包まれて May love last Forever!


聖なる…か。
どこからともなく流れてくるクリスマスソングを聴いていると、
ふとあいつの名前のことを思い出す。


「おかい…ちさ…」
「はいは〜い♪」
「おわっ!?」
心臓が止まりそうになった。
振り向くといたずらに成功した時の悪ガキ笑顔で岡井が立っていた。


「お待たせっ」
「お、おぅ…そんなに待ってないけど」


「えへへ、そう。じゃ、いこっか」
と背を向けた岡井に問いかける。


「その…どうだった?」
「…ちゃんと振られたよ」


「そっか…」
「約束どおり、おごってくれるよね」
「おう」
向こうを向いているので岡井の表情は分からなかったが落ち込んだ様子はない。
振られるのに「ちゃんと」も何もないと思うが、なんとなく安心する。


俺は小走りで岡井の後を追った。



目的のアイスクリーム屋は人でごった返していた。
注文を待つ列も店の外まで伸びている。
冬なのに物好きなことだ。


「どうする?」
「ど〜もこ〜もないっす。あたしは席とり、キミはアイスケ〜キ。よろしくぅ!」
と言い残し、止める間もなく岡井はスタスタと店内に入っていった。


単に暖まりたいだけだろう。
そう思いつつも素直に列につく。
見回すと周りはカップルだらけ。
男子独りだけでいる俺は、さっきと違った意味で場違いな思いに駆られた。
岡井と一緒に並ぶことができれば良かったのに…


列は意外に回転が早く、あっという間にレジまで5人ぐらいになった。
「あら…」
声のした方を見ると同じ学校の制服姿の女子がこっちを見ていた。


「有原…先輩?」
「ど〜したのこんな所で?なるほど…そっかそっか」
先輩はひとり納得してクスクス笑い始める。


「先輩は、その…?」
「あ〜、今から早貴ちゃん家で勉強するから私のことは気にしないで♪」
と分かるような分からないようなことを言って先輩はおみやげの箱を軽く振った。
ほのかにみかんの匂いが漂う。おみやげだろうか。


「受験…近いですもんね」
「そうそう、色々と頑張んなきゃいけないのよ。それじゃあね」
「失礼します」
と挨拶をしたものの、入り口まで行った所で先輩は何かを思い出したらしく、俺の所に戻ってきた。


「ちょっと耳貸して」
「はっ?」
身体を傾けた俺に先輩は意味ありげに笑って
ちっさーのことよろしくね」
と耳打ちして、あっという間に回れ右をした。
「えっ…」
「メリークリスマス♪」
向こうをむいたまま先輩は手をひらひらさせて店を出て行った。


(多分…つづく)